大阪地方裁判所 平成7年(ワ)6029号 判決 1997年1月27日
原告
最所邦夫
右訴訟代理人弁護士
井上二郎
同
中島光孝
被告
株式会社銀装
右代表者代表取締役
赤木宗成
右訴訟代理人弁護士
北尻得五郎
同
松本晶行
同
桂充弘
同
工藤展久
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 原告が、被告羽衣工場商品センター部商品管理課商品係として勤務する法律上の地位を有することを確認する。
二 被告が原告に対してなした平成七年三月二七日付け譴責処分が無効であることを確認する。
第二事案の概要
本件は、原告が、被告の行った配置転換及び譴責処分が無効であるとして、被告に対し、配置転換前の職場に勤務する法律上の地位の確認及び譴責処分が無効であることの確認を求めた事案である。
一 当事者間に争いのない事実、証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨により認められる事実
1 原告は、昭和五三年四月一日、和洋菓子の製造及び販売等を業とする株式会社である被告に雇用され、平成四年三月二一日、被告羽衣工場商品センター部商品管理課商品係(以下単に「商品係」ということがある。)に異動し、右同日、商品係長に昇進した。また、原告は、平成元年以来、現在に至るまで、被告従業員で構成される銀装労働組合(以下「組合」という。)の組合長の地位にある。
2 平成七年三月一四日午後五時頃、原告の上司である商品管理課長稲葉益三(以下「稲葉課長」という。)が、原告に対し、製造現場が多忙で応援が必要なため、商品係詰合せ班の係員の中から、三月一六日及び一八日の二日間製造部門に応援を出すよう指示した。原告は、これに対し、二日間は無理であり、一日だけなら可能である旨返答した。
3 平成七年三月一六日の朝、稲葉課長及び商品センター部長間嶋清一(以下「間嶋部長」という。)は、原告に対し、再度右2と同趣旨の指示をし、詰合せ班には間接部門から応援に来てもらう旨説明したが、原告は、これに難色を示した。しかしながら、間嶋部長は、商品係詰合せ班の西田班長に指示し、同班の従業員三名を製造部門へ応援に行かせた。
原告は、その直後である同日午前九時過ぎ頃、同日ないし同月一八日、同月二〇日及び二一日の五日間の有給休暇を取得する旨の有給休暇取得届(勤怠諸届個人表)を稲葉課長の机の上に置いて退社した。
4 原告は、平成七年三月一八日、組合活動のために出社した際、被告総務部次長村上隆寛(以下「村上次長」という。)に対し、稲葉課長が応援を強行したので、抗議の意味で有給休暇を取った旨説明した。また、同月二〇日、稲葉課長が原告と面談し、有給休暇取得の手続に問題があり、明日からでも出社する気はないか確認したところ、原告は、「有給休暇は労働者の権利である。」「意地があり、出勤する気はない。」旨答え、同月二一日まで休暇を取得した。
5 被告は、平成七年三月二五日、原告に対し、同月二七日付けをもって被告羽衣工場商品センター部商品管理課商品係から同部物流課集品係(以下単に「集品係」ということがある。)へ異動を命ずる旨の意思表示をし(以下「本件異動命令」という。)、併せて、原告を譴責処分に付する旨の意思表示をした(以下「本件譴責処分」という。)。
6 被告と組合との間の労働協約(以下「労働協約」という。)第一五条は、組合役員の出向、転勤、派遣、応援、職務替えに際しては、あらかじめ組合と協議する旨規定する(以下「事前協議約款」という。)が、被告は、原告に対し本件異動命令をなすにつき、事前協議を経なかった。また、被告には、賞罰委員会規定に基づき賞罰委員会が設置されているが、被告は、本件譴責処分をするにつき、賞罰委員会の審議を経なかった。なお、原告は、本件譴責処分について当初賞罰委員会の開催を要求したが、後に被告との団交の席上において、右要求を撤回した。
7 被告の就業規則には、第七二条に、「懲戒の種類及び取扱いは次の通りとする。1 譴責 始末書を提出させ訓戒する。2 減給(中略) 3 出勤停止(中略) 4 懲戒解雇(以下略)」との定めがあり、第七三条(譴責の基準)に、「従業員で次の各号の1に該当する者は譴責の処分を受ける。(中略)5 減給処分を受けるべき者であって、その情状において特に酌量すべき事由のあるとき、または改悛の情顕著なとき。(以下略)」との、第七四条(減給の基準)に、「従業員で次の各号の1に該当する者は減給の処分を受ける。1 業務上必要な注意を怠り会社の業務に支障をきたした者、または会社に損害を与えたとき。(中略)4その他上記に準ずる不都合な行為のあったとき。」との、第七五条(出勤停止の基準)に、「従業員で次の各号の1に該当する者は出勤停止の処分を受ける。(中略)2 就業時間中みだりに仕事を放棄したとき。(以下略)」との、それぞれ定めがあり、労働協約にも同旨の定めがある。
二 原告の主張
1 本件異動命令について
(一) 不当労働行為
(1) 原告は、平成元年に組合長に就任して以来、組合員の先頭に立って闘い、平成五年頃には、ワッペン着用闘争を再開したり、被告の一時金の回答に対抗して半日ストライキを含む闘争を指導するなど、積極的に組合活動をしてきた。
(2) これに対し、被告は、常に組合弱体化を図ってきたが、原告に対しては、平成二年三月から平成四年三月まで総務部に配属し、商品情報システム開発担当としたが、実際には仕事をほとんど与えず、労働者として孤立感、疎外感を与えたうえ、総務部長と毎日向かい合って座らせるという嫌がらせをした。
また、被告は、原告を総務部に配属すると、営業手当とみなし残業手当の各支給を停止して月額二万八二〇〇円の賃金切り下げをし、平成二年八月には新人事制度と称して原告の係長の呼称を廃止し、役付手当月額八七〇〇円の支給を停止し、資格手当月額三〇〇〇円を支給するとの提案をするなど、原告を経済的、精神的に追い詰めようとした。
組合の抗議により、役付手当は暫定的に維持されたが、被告は、平成二年一〇月二一日、原告の呼称を一方的に主査とし、また、通常は係長心得に昇進した者は半年ないし一年後に係長に昇進しているにもかかわらず、原告については二年六か月後にようやく係長に昇進させた。
(3) 原告が平成四年三月二一日商品係に異動した後も、組合が平成六年一〇月から取り組んできた時間外労働拒否闘争を嫌悪する被告は、原告が所属していた商品係詰合せ班の解体を目論み、同年冬、同班の従業員一〇名のうち七名を他部門の応援に出させた。本件紛争の契機となった被告による平成七年三月の応援派遣要求及びその後の本件異動命令も、被告による原告の職場解体のための行為の一環としてなされたものである。
(4) 本件異動命令は、右のように、原告の職場自体の解体を目論むものであり、業務上の必要性や合理性を全く欠き、原告の組合活動を理由とする不利益取扱いであって、労組法七条一号、三号の不当労働行為に該当し、無効である。
(二) 事前協議約款違反
本件異動命令は組合と何ら協議することなく強行されたものであるから、事前協議約款に違反しており、無効である。
2 本件譴責処分について
(一) 処分事由の不存在及び手続違反
被告においては、労働協約に処分事由が定められているとともに、処分に当たっては賞罰委員会の審議と答申を経るべき旨を定めた労働協約が存在するところ、本件譴責処分は、労働協約所定の処分事由がなく、かつ、賞罰委員会の審議を経ずに行われたものであるから、無効である。
(二) 不当労働行為
本件譴責処分は、本件異動命令と同様、原告の組合活動を理由とする不利益取扱いであって、労組法七条一号、三号の不当労働行為に該当するので、無効である。
(三) 確認の利益
本件譴責処分により、原告は次のような不利益を受けるおそれがあるので、本件譴責処分の無効を確認する利益がある。
(1) 被告においては、勤務成績に応じた昇給、昇格及び賞与支給を行っており、原告は、本件譴責処分を受けたことを理由に、これらにおいて不利益を受けるおそれがある。
(2) 被告の就業規則によれば、譴責処分を受けた者は始末書を提出する義務を負うこととされており、原告は、自己の意思に反して始末書の提出を強制されるおそれがある。また、原告がこれに従わないときには、就業規則第七四条七号又は第七五条七号により、減給又は出勤停止等の処分を受けるおそれがある。
三 被告の主張
1 本件異動命令について
(一) 不当労働行為の主張について
(1) 原告は、商品係長としての地位にありながら、会社全体の業務遂行を考えず、部下の応援の派遣について上司からの指示にも従わず、上司への抗議と称して繁忙期の最中に一方的に職場を放棄したことから、被告は、このままでは、円滑な業務遂行が出来ないと考え、やむなく、平成七年三月二五日、原告を係員が応援等に行くことの比較的少ない集品係に異動を命じたものであり、本件異動命令は、原告の組合活動を理由としたものではない。
(2) なお、原告は、本件異動命令前にも、被告が繰り返し原告の組合活動を理由として嫌がらせ、不利益取扱い等の不当労働行為をしたと主張するが、右はいずれも根拠を欠くものであって、理由がない。すなわち、
原告は、総務部への配属は、原告の組合活動を理由とする嫌がらせであると主張するが、当時顧客情報及び商品情報のシステム化が将来の事業展開を図るため極めて重要な課題であったことから、幹部候補生として採用した原告に右業務を担当させたものであり、被告が組合を敵視していれば、経営上の機密にも触れる機会のあるこのような職務を原告に担当させるはずがない。
また、被告は、原告が組合長であることに配慮し、係長心得として総務部に所属するときには本来組合を離れることになっていたにもかかわらず、原告に限っては組合員資格を有したまま所属することを認め、原告が高石市会議員選挙に立候補する話があったときにも、原告の支援要請に対し被告は全面的に協力してきた。このような事実からしても、被告に組合敵視の意思などなかったことは明らかである。
なお、原告及び組合は、原告の総務部配属に際し、何ら異議を述べていない。
原告が賃金切り下げと主張する点は、総務部へ異動したことにより、営業担当に支給されていたみなし残業手当及びセールス手当が各支給されない代わりに、残業時間に応じた残業手当が支給されることとなっただけであって、何ら原告の賃金を切り下げたものではない。
被告は、平成二年九月二一日、新人事制度を導入して職制システムの改善を図り、同年一〇月二一日、原告の役職を係長心得から主査としたが、これは全社的な組織変更に伴うもので、原告一人を追い詰めるために行ったものではない。
(二) 事前協議約款違反の主張について
本件異動命令は、原告の就業場所、地位、仕事の内容及び労働条件に変化をもたらすものではなく、単なる勤務部署の移(ママ)動に過ぎないから、原告の組合活動に影響を与えるおそれは全くなく、被告の人事権の行使として行い得るもので、労働協約上の事前協議の対象である出向、転勤、派遣、応援、職務替えのいずれにも該当しない。
また、労働協約が、組合役員の異動について事前協議を定めているのは、異動によって組合活動に支障を来すことを防止する趣旨であるから、異動によって組合活動に支障を来すおそれが全くない場合には、事前協議は行う必要がなく、従前より、そのような場合には事前協議を行わないことが慣行となっていた。実際、原告が平成二年三月に総務部に配置転換されたとき及び平成四年三月に総務部から商品係に配置転換されたときにも、事前協議は行われていないが、いずれの際も、原告は何ら異議を述べていない。
さらに、事前協議約款が組合活動を保護するためのものである以上、事前協議をするか否かは、組合の判断と申入れによるべきものであるが、組合は、本件の異動につき、事前協議の申入れを行わず、団交の申入れを行ったのであって、組合自身が事前協議に代わり団交を選択したものである。
2 本件譴責処分について
(一) 本件譴責処分の理由
(1) 平成七年三月当時、被告の業務は非常な繁忙期に当たり、部課を越えて社員間の応援態勢を取る必要があった時期であるにもかかわらず、原告は、これを熟知しながら、係員を製造部門に応援に出すようにとの上司の指示命令に従わず、係長という地位にありながら、何ら客観的な必要性もないのに、当日の朝、上司に抗議するため、一方的に、課長席の机の上に休暇届を置いたまま有給休暇を取得して退社し、その後も上司の説得、助言を無視し、単なる意地に基づき休暇を継続した。
右行為は、係長の地位にありながら、上司の指示命令を拒否したものであるばかりでなく、被告においては、有給休暇の取得は原則として事前届出制とし、当日届出による休暇は本人や家族の急病等突発的かつ緊急の必要のある場合に限っており、これは組合との協定でも確認されているところ、原告は、右のような事由がないにもかかわらず、右手続に違反して有給休暇を取得したものであり、これは、被告の時季変更権の行使を妨害したものである。
(2) 原告の前記行為は、職場規律を意図的に破壊するものであり、就業規則第七五条二号又は七号、あるいは第七四条一号又は四号に該当するというべきであり、出勤停止又は減給の要件に該当するが、あえて第七三条五号又は六号により、最も軽い譴責処分としたのであって、本件譴責処分は、原告が組合長であることとは何ら関係がない。
(二) 賞罰委員会について
(1) 被告においては、譴責処分をするについては、それが軽微な処分であることのほかに、本人の名誉も考慮して賞罰委員会は招集しない慣行となっている。事実、過去二十数年間に五十数人につき譴責処分をしたが、賞罰委員会が開催されたことはない。
(2) 本件譴責処分をするに当たっては、原告から賞罰委員会の開催の申入れがあったため、被告は、従来の慣行に反し、賞罰委員会開催を決定し、開催日時を決めた。しかしながら、その後の団交の席上、原告は、賞罰委員会の開催の申入れを撤回したので、右開催を中止した。
四 被告の主張に対する原告の反論
1 有給休暇取得手続について
(一) 被告においては、有給休暇は、勤怠表に提出日、取得日、取得事由等の所定事項を記載のうえ、取得者が捺印し、これを直接の上司の机に置くことで取得するのが長年の慣行となっている。したがって、原告が有給休暇取得手続に違反した事実はない。
(二) 原告の提出した勤怠表の有給休暇届出欄には、稲葉課長らの捺印があるところ、これは、被告が時季変更権を行使しなかったことの確認の意味を持つものであるから、原告が被告の時季変更権を妨害したとの主張は当たらない。
また、当時は通常よりは繁忙であったとしても、原告が出社せずとも業務の運営に支障はなかったのであり、時季変更権を行使するための要件がなかった。
2 事前協議約款について
(一) 組合が、原告の平成二年三月の総務部への異動及び平成四年三月の商品係への異動について、事前協議の申入れをしなかったのは次の事情による。
(1) 総務部への異動は、前記のとおり明らかに組合敵視に基づく嫌がらせであったため、原告及び組合はこれに対し厳しく抗議したが、定例の人事異動の一環として行われたことから、事前協議や団交の要求を差し控え、やむなくこれに従った。
(2) 商品係への異動は、従来より原告が希望していた異動であり、組合活動にも都合が良いため、あえて事前協議の開催を要求しなかったまでのことである。
(二) 本件異動命令は、本来であれば事前協議を要求すべき性格のものであったが、土曜日である平成七年三月二五日に、同月二七日付けで発令されたものであって、原告及び組合が事前協議を要求するかどうか検討を行う余裕がなかったため、右要求ができなかったからにすぎない。
(三) 従来、組合員の地位に影響がない場合に事前協議が行われなかったのは、本来そのような場合でも事前に異動内容を組合に提示し、説明を行うことになっていたにもかかわらず、被告が、事前協議をする時間的余裕のない時期に異動の発令をしてきたため、事実上事前協議が不可能だったからに過ぎない。
五 争点
1 本件譴責処分の処分理由が認められるか。
2 本件異動命令及び本件譴責処分が不当労働行為に当たるか。
3 本件異動命令に際し、組合との事前協議が行われなかったことが、その効力に影響を及ぼすか否か。
4 本件譴責処分において賞罰委員会が開催されなかったことが、その効力に影響を及ぼすか否か。
第三争点に対する当裁判所の判断
一 争点1について
1 譴責処分の無効を確認する利益について
まず、原告につき、本件譴責処分の無効を確認する利益の存否が一応問題となる。しかしながら、前記判示のとおり、被告の就業規則上、譴責処分は「始末書を提出させ訓戒する」ものとされ、懲戒解雇、出勤停止及び減給とともに懲戒処分の一種として明確に位置づけられていることから、原告は、本件譴責処分に基づき、始末書の提出を義務づけられるとともに、将来の人事考課を通じ、労働契約上何らかの不利益を受ける可能性が当然に予定されているといえるので、原告は、右のような法律上の地位の不安、危険を除去するため、本件譴責処分の無効確認を求める利益を有するというべきである。
2 有給休暇取得手続について
証拠(<証拠略>)によれば、昭和五一年九月に被告と組合との間で締結された労働時間短縮並びに月給制に関する協定書において、有給休暇は事前届出を原則とするが、<1>本人の急病、<2>家族の急病、<3>両親が緊急上阪して迎えに行く場合、<4>世帯主で葬儀の手伝いをする場合、<5>休暇で旅行中、天災にて帰れない場合、<6>単身者が急病で電話連絡できずに欠勤したとき、<7>人命にかかわるような緊急突発事故が発生した場合については、当日届出の有給休暇の取得を認めるものとされていること、同様の内容は、被告において配布している新入社員のしおりにも記載されていることが認められる。
そして、原告の本件における有給休暇の取得が、右いずれの場合にも該当せず、当日届出の有給休暇取得が認められない場合であることは明白であるから、原告の本件における有給休暇の取得は、その手続に違反したものであることは明らかである。
これに対し、原告は、有給休暇は当日上司の机に勤怠表を提出することで取得するのが慣例となっていた旨主張し、証拠(<人証略>)によれば、事前届出による休暇取得の場合には、そのような方法が一般に取られていたことを認めることができるが、前記の要件が存在しないにもかかわらず当日届出の有給休暇を取得することが認められていたことを窺わせる証拠は存在しないから、これがため前記判断が左右されるものではない。また、被告は、最終的には原告の有給休暇取得を認め、年休を消化した扱いとしたことが認められるが、証拠(<証拠・人証略>)によれば、これは、欠勤扱いとすることによる組合との軋轢を避けるため、被告が事後的に取った措置であることが認められるから、前記認定を左右するものではない。
3 以上のように、本件における原告の有給休暇の取得は、その要件がないにもかかわらず当日届出によって取得されたもので、正当な有給休暇の取得とはいえないものであるところ、証拠(<証拠・人証略>)によれば、原告の突然の休暇取得により、他の部門の従業員が残業するなどして、その穴埋めをしたことが認められ、原告の右行為により、被告の業務に支障を来たしたことは明らかである(なお、原告は、原告の休暇取得によって業務上の支障は生じなかった旨主張するが、仮にそうであったとしても、右のとおり、他の従業員らの犠牲のもとに業務上の支障が結果的に生じなかっただけであるから、原告の右行為が業務に支障を来たさなかったとはいえない。)。そして、証拠(<人証略>)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、当時被告の業務が繁忙期にあり、休暇取得によって業務に支障が出ることを予想しながら、専ら稲葉課長を困らせるため又は同課長に対する抗議のためという理由によって、五日間の休暇を取得したことが認められるところ、原告の係長という立場を考慮すると、原告には、休暇取得の動機ないし理由において酌量すべき余地は全くないといわざるを得ない。
以上の点を総合考慮すれば、原告の行為は、就業規則第七五条二号の「就業時間中みだりに仕事を放棄したとき。」及び第七四条一号の「業務上必要な注意を怠り会社の業務に支障を来たしたもの」に該当することが認められ、出勤停止処分又は減給処分に相当すると考えられるところ、被告があえて第七三条五号(「減給処分を受けるべき者であって、その情状において特に酌量すべき事由のあるとき、または改悛の情顕著なとき」)を適用して本件譴責処分をしたことは、相当であって、これを失当と言うべき余地は全くない。
二 争点2について
原告は、本件異動命令及び本件譴責処分が原告の組合活動を理由とする不利益取扱いであると主張するので、検討する。
原告が平成二年三月に総務部商品情報システム開発担当に発令されたこと、同年九月二一日被告が新人事制度を実施し、原告の役職が同年一〇月二一日主査と変更になったことは当事者間に争いがなく、証拠(<証拠・人証略>)によれば、原告が平成元年に組合の組合長に就任して以来、組合は、原告の指導の下にストライキ、時間外労働拒否及びワッペン着用等の運動を展開し、被告との間に訴訟を含めた係争を抱えていたこと、商品係詰合せ班においては、平成六年一二月頃製造部門に大量の応援人員を提供し、平成七年二月頃からは、四名が製造部門に長期応援に出ていたことが認められる。しかしながら、原告が主張するように、平成二年三月の原告の総務部への配転が原告の組合活動を理由とした嫌がらせであったこと、新人事制度の導入が原告を追い詰めるためのものであったこと、従来より被告が原告の職場の解体を目論んでいたことについては、いずれもこれを認めるに足りる証拠は存在しないし、被告が詰合せ班から製造部門に係員を応援に行かせたことが、原告の職場を解体する意図に基づくものであったことを窺わせる証拠も存在しないから、原告の前記主張は理由がない。
なお、(証拠略)によれば、稲葉課長は、原告に対し、被告には組合活動をしている者は昇進昇格させない体質がある旨の発言をしたことが認められるが、(証拠・人証略)によれば、右発言は、原告の昇給を巡り原告が同課長を追及する中で、同課長が、その場を逃れるため個人的意見を述べたものに過ぎないことが明らかであり、右発言から直ちに被告の組合嫌悪の意思を推認することはできないから、(証拠略)の記載は前記認定を左右するものではない。
三 争点3について
1 被告は、本件異動命令が配置転換を命じたものではなく、単なる部署の異動を命じたものである旨主張する。しかしながら、本件異動命令は商品センター部商品管理課から同部物流課への課の異動を命じるものであること、(証拠・人証略)によれば、商品係は、商品製造工程の最終段階であり、製造された菓子を箱に詰める作業を内容とするが、集品係は、完成され、包装された製品を伝票に従って送付先別に振り分けて発送する作業を内容としており、両係においては職務内容が異なっていることが認められることに鑑みれば、本件異動命令は、同一事業所内における職務内容の変更であるということができ、いわゆる配置転換命令に該当するというべきである。
しかしながら、(証拠・人証略)によれば、本件異動命令は勤務場所の変更を伴うものではなく、職務の内容もそれほど大きく変化するものではないこと、異動の前後において職務の繁閑の程度において差がないことが認められ、また、前記のとおり、本件異動が同じ係長としての異動であって、降格を伴うものではないことを考慮すると、本件異動命令は、被告が、権利濫用に渡らない限り、その人事権の行使として自由に行い得る性質のものであるというべきである。そして、本件異動命令が不当労働行為に該当するとは認められないことは前記のとおりであり、他に本件異動命令が権利の濫用であることを窺わせる証拠は存在しない。
2 もっとも、本件異動命令は、形式的には労働協約において事前協議が義務づけられている組合役員の「職務替え」に該当すると考えられるから、本件において事前協議を経ていないことが本件異動命令の効力に影響を及ぼすか否かについて検討する。
確かに、本件異動命令は、形式的には労働協約上事前協議が義務づけられている場合に該当するが、右事前協議約款は、組合役員の異動により組合活動に影響が及ぶことを防止する趣旨に出たものであることは明らかであるところ、前記のとおり、本件異動命令は、勤務場所の変更を伴うものではなく、職務の内容もそれほど大きく変化するものではなく、異動の前後において職務の繁閑の程度において差がないことに照らせば、これにより原告の組合活動に影響を与える余地はないというべきであるから、本件異動命令につき事前協議を要求する実質的意味はないものといわざるを得ない。また、証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば、原告が平成二年三月に営業部から総務部に配置転換されたとき及び平成四年三月に総務部から商品センター部商品管理課商品係に配置転換されたときにも事前協議は行われておらず、原告又は組合からその申出もなかったこと、原告は、本件異動命令を受けた際、直ちに団交の申入れをしたにもかかわらず、事前協議の申入れをしておらず、また、事前協議がなかったことに対して抗議をした形跡がないこと、被告においては、従前から、組合役員の異動であっても、組合員としての資格や組合活動に影響を及ぼさない場合には、事前協議は行われていなかったことが認められ、これらの事実を総合すると、被告においては、組合活動に全く影響を与えない異動の場合には事前協議を行わないことが労使慣行となっていたというべきである。してみれば、本件異動命令に際し、事前協議を経なかったことは、手続上の瑕疵に当たるとはいえないのであって、本件異動命令の効力に何ら影響を及ぼさないと解すべきである。
四 争点4について
1 (証拠略)によれば、被告においては、昭和五三年に労使協議のうえ賞罰委員会規定が作成されており、これによれば、懲戒処分を行う場合には賞罰委員会を開催し、その審議を経たうえで行うものとされている。しかしながら、(人証略)によれば、被告会社においては、表彰の場合及び譴責処分等の軽微な懲戒処分の場合には、賞罰委員会は開催されたことがないことが認められ、右規定は必ずしも厳格には運用されていなかったことが認められる。
さらに、原告は、本件譴責処分につき、当初賞罰委員会の開催を要求したが、その後団交の席上でこれを撤回したことについては、当事者間に争いがない。
2 以上によれば、被告においては賞罰委員会の開催が必ずしも厳格に行われていたわけではなく、特に譴責処分については同委員会は開催しないことが慣例となっていたということができることに加え、原告自身が、本件譴責処分について、いったん同委員会の開催を要求しながらこれを撤回したことを考えあわせると、本件譴責処分に先立って賞罰委員会が開催されなかったことをもって、手続上その効力に影響を及ぼすような重大な瑕疵があるとは到底いえず、この点は本件譴責処分の効力に何ら影響を及ぼさないというべきである。
五 結論
以上のとおりであるから、原告の請求はいずれも理由がなく、棄却することとする。
(裁判長裁判官 中路義彦 裁判官 谷口安史 裁判官 仙波啓孝)